全部原価計算(在庫と利益)

原価計算には、全部原価計算と直接原価計算があります。
財務会計(上の財務資料の棚卸資産、売上原価の計算)は、全部原価計算で行う必要があります。
全部原価計算では、原価は、直接材料費+製造費(製造部門で発生した人件費などの費用)で構成されると考えます。
・製造工程に投入される費用は、直接材料費と製造費
・製品倉庫への入庫金額は、直接材料費+製造費で計算された原価(=製造原価)
・製品倉庫の月末残高(=製品在庫)及び、売上原価は、製造原価から計算される
・販売費及び一般管理費は原価計算の対象外
・営業利益=売上高-売上原価-販売費及び一般管理費

全部原価は、資産の評価のための原価(各製品は、いくらの費用を負担するか)です。
全部原価計算で原価を計算すると、「在庫を増やせば、利益が増える」ことになります。
なぜそうなるか、下記の図を用いて説明します。

①は、製造費の発生額は120円、製造数が10台なので、各製品が負担する製造費は12円になります。
在庫は1台なので、在庫に含まれる製造費は12円、売上数は9台なので、売上原価に含まれる製造費は108円となります。
②は、製造数が12台なので、各製品が負担する製造費は10円になります。
在庫は3台なので、在庫に含まれる製造費は30円、売上数は9台なので、売上原価に含まれる製造費は90円となります。
つまり、同じ売上でも、②の方(たくさん製造して、たくさん在庫にした方)が利益が大きくなるわけです。
製造業の場合、製造工程における加工を伴いますので、加工費の低減=原価低減と考えるのは、当然であると言えます。
そのため、複数の製品がある場合、それぞれの製品の加工時間を測定し、加工時間によって各製品の加工費を計算(製造費の発生額を各製品の加工時間で配賦)するしくみをつくり、製品別加工費の低減をテーマとしてとして各種活動が行われるケースがあります。
しかし、
・会社トータルの加工費(製造費の配賦額)は、製造費の発生額そのものを減らさないと減らない
・製造現場における加工費低減(加工時間の低減=能率改善)は、余力を生み出し、その余力で売上増に伴う生産増に対応するために行うものである
・売上増に関係なく、生産増を行うのは、在庫を増やすだけ(計算上は利益が増える)
・全部原価計算で加工費低減だけをテーマにすると、同じ製品をたくさんつくると段取り替えも減り、能率も上がることから、そのような発想(なるべく大きなロットでつくる)になりがちであるが、それは、売上と結びついてはじめて正しいと言えるのであって、製造の都合だけでたくさんつくるのは間違い
このような点に、注意する必要があります。
こうした全部原価計算の弊害とも言える事象を防ぐには、
・営業利益と在庫をセットでみる
・営業キャッシュフローをみる
・財務会計とは別に、直接原価計算による業績情報を運用する
が考えられます。
これらについては、別途、解説します。